ウェルビーイング施策提言

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社会とウェルビーイング

コロナ禍以降、健康をさらに包括する概念であるウェルビーイングへの注目が加速しています。アクティブデザインセンター(ニューヨーク)のシビックデザインガイドラインは、健康で繁栄するコミュニティ、すなわち人々が信頼し、地元の制度に自信を持ち、地元の優先事項に取り組むために積極的に協力するようなコミュニティにとって、堅固な市民生活が不可欠としています。その市民生活が、通りや広場から公園や公共の建物に至るまで、公共の領域の設計と維持に直接関係していることを示しており、社会的格差を埋め、公共の領域に再投資し、市民生活を促進するため、すべての居住者が利益を得ることができるように投資の公平な分配を優先することが特に重要とされます。
一方で医療以外の手法によりウェルビーイングを向上させる手法として、社会的処方があります。社会的処方は、個人の生活のあり方や社会生活における能力の発揮を促す機会をつくるもので、社会的処方と、それを施すリンクワーカーは社会と市民のつなぎ役としてのニーズに応えます。社会的処方はあらゆる年代、あらゆるコミュニティに対してアプローチするものであり、結果として孤立や心身の不調、社会的な不安の改善には大きな効果をもたらし、ウェルビーイング向上につなげることができます。これには保健医療先導型の社会的処方だけでなく、広くウェルビーイング向上に資する社会的処方を都市緑地が担うべきです。これまで健康は医療に任されてきましたが、本来医療は病気の状態を健康な状態に戻すことであり、医療だけではウェルビーイングを高めることはできません。健康な状態に保つ予防とウェルビーイングの向上は非医療で担うべきところであり、この場として公園をはじめとした都市緑地が活用できるのです。

ウェルビーイング

健康は、1948年のWHO憲章において「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されています。ここには心身の健康とウェルビーイングが併記され、両方が満たされて健康であることが示されています。そこで私たちは、医療すなわち治療により健康を維持しようとする取り組みを横軸とし、ウェルビーイングを向上させる非医療の取り組みを縦軸に取ってアクティブ軸とすることを提案します。アクティブ軸は、向上するほど自発的でいきいきと充実した生活となり、さらに心身に治療を要さないヘルス軸の向上が加わると、体も心も社会的にも良好で満たされた状態であるウェルビーイングが高まるのです。アクティブ軸は介護や福祉など多様な軸を含む総合的な軸であり、例えば、バリアフリーやインクルーシブもアクティブ軸を上方へと押し上げる方法となります。このように考えれば、医療だけで健康を維持するのではなく、健康をも含むウェルビーイングを担うのが都市緑地であると理解されるのではないでしょうか。健康は目的ではなく手段であり、都市緑地もまたウェルビーイングを向上させるための手段なのです。

4つのデザイン提言

都市緑地の位置づけにおいて、その意義を正しく理解し、ウェルビーイング向上に資するまちづくりを推進するための、4つのデザインをここに提言します。ここでのデザインは「まち」にとどまるものではなく、「ひと」「こと」も含めた総合的な施策デザインを目指します。
まずは、都市に暮らす人々の都市緑地やウェルビーイングについての捉え方をデザインする「意識デザイン」です。緑地がなぜまちにあるのか、公園をどのように使えば心身にも社会にも効果が波及するのか、そういったことを市民一人ひとりが感じ取れる意識変容を促します。
つぎに、都市緑地を様々な社会課題解決のための中心として位置づける「制度デザイン」です。都市緑地は単なる都市の空き地ではなく、空地として存在することが重要です。上質な都市緑地が空地として存在し続けるためには、効果を知って積極的に活かすことが重要です。
そして、都市緑地の存在と活用による効果を可視化し持続可能な都市施設として位置づける「経営デザイン」です。ともすれば公園などの都市緑地だけで経済を完結させようと考えがちですが、都市緑地の効果は都市緑地の外へと波及します。波及効果を理解し、社会全体から都市緑地経営を考えます。
最後に、緑豊かで多様な利用を受け入れる効果を発揮する「空間デザイン」です。緑には人間にとって心地よいと感じられる形態があります。植物があればよいだけではなく、美しく快適な緑の空間を維持し続けることもウェルビーイング向上に貢献します。

提言の実現に向けて

都市緑地は、多様な社会課題に対して有効な解決策となります。例えば、高齢者の健康維持や孤独感の軽減、労働改革の実現、教育課題の解決などにおいて、都市緑地は重要な役割を果たすことができます。また、都市緑地の整備や充実は、環境保全や温暖化対策、自然災害のリスク軽減などにもつながります。
今後、都市緑地の整備や充実を進めることによって、社会課題の解決や持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。そのためには、都市計画や環境政策、教育政策など、様々な分野の専門家が協力して整備と人的投資を行う総合的な施策を進めることが必要です。
私たち公園からの健康づくりネットは、ウェルビーイング向上を目指す行政や公共空間の管理者、コミュニティの中間支援組織等をサポートします。

『アクティブデザインのすすめ ウェルビーイングのための まち・ひと・ことのデザイン提言』本編は以下をクリックしてご覧いただけます。
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